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映画の下手な観方

昨日映画「Dawn of the dead」を観てきたのだけれど、終演後にとてもアレな会話を小耳に挟んでしまってちょっと微妙な気分になった。

「まんまバイオハザードのパクリじゃん」
「あんな終わり方意味ないじゃん」

他人様がその映画に対してどのような感想を抱こうともそれは当人の自由であるのでどうとは言わないのだけれど、いや言わないのであれば思うだけでこんなエントリーを書かないのだけれど、だから今から言うのだけれど、単刀直入に申し上げると、想像力や感受性が足りなすぎて映画を十分に楽しめていない(理解しきれていない)という印象しか持てないという。

※ ややネタバレを含むかも知れません。

そもそも本作がロメロ監督の名作の リメイクである ということは割と有名というか先行情報として宣伝に使われていたと思うのだけれど、それを知らなかったとしても「バイオハザードのパクリ」という発言は酷い。

決してバイオハザードというゲーム(映画の方?)を軽視するつもりはないし面白いと思うけれど、あれがいわゆる「ゾンビ」の始祖的位置づけであるような解釈は滑稽としか言いようがない。スプラッターやホラーが好きな人でなければロメロという名前には全然聞き覚えがないかも知れないが、「死霊のはらわた」や「ゾンビ」という映画が七十年代に大ヒットしているし、さらに有名なところでは「エルム街の悪夢」のフレディや「13日の金曜日」のジェイソンだってアンデッド(≒ゾンビ)だ。「霊幻道士」などのキョンシーだってそんなものだし。死者が何らかの力で動き出して人々を惨殺しようとする、というのは三十年近く前から続く王道的なものであるし、それが数年前に飛躍的に性能を上げた当時のコンシューマ機に「バイオハザード」や「サイレントヒル」(プレイしたことないけど確かそんな感じ)として表現されたにすぎないのであって、何も「バイオハザード」というゲームがゾンビたるイメージの全てを生み出したわけではない。むしろ七十年代にロメロ監督が作成した「ゾンビ」シリーズによってそれのイメージが定着し、多種のメディアに変換されていったと考える方が至極自然である。
当然「バイオハザード」にもそのエッセンスは色濃く受け継がれている。ゾンビが緩慢な動きで人間を襲う、ゾンビに襲われたものは同じくゾンビとなる(この点「バイオハザード」はその名の通り、人災としてウィルスが蔓延したのだという設定になっていたように思う)、何よりその舞台が閉鎖的な建物がベースとなっているのはホラーの伝統である「逃げ場のない」という臨場感を生み出すための演出に添っているのではないだろうか(ゲームとしての制約も当然あるのだろうけれど)。

ロメロ監督が生み出した「ゾンビ」のイメージを踏襲した作品「バイオハザード」が、ロメロ監督自身の作品のリメイクである本作「Dawn of the dead」にパクられているという考えは理解しがたい。もちろん「バイオハザード」の視覚的効果や映像技術からいくらかの影響は受けているだろうけれど、それをパクリと表現するのであれば「マトリックス」は「アビス」のパクリにだってなるだろう。「スーパーマン」のパクリであるかも知れない。もしかしたら「ローマの休日」のパクリであるかも知れない。ラブシーンなんかが。

事前情報がなければ楽しめない映画が良いものであるわけではないし、実際本作はそんなもの無くても全然楽しめるのだけれど、実際そうやって楽しんだものを自身の少ない体験から(発言ひとつで映画にどれだけ興味を持っていないか洞察されてしまうこともあるってことですよ)「○○の模倣作品である」などとくだらない決め打ちをすることは物凄く程度が低いことだし、それを終演直後に友人らに「オレってホラー関連詳しいから。あれってバイオハザードだろ?」なんて吹聴するような行為は滑稽であるので控えた方が良い。こんな風にブログのネタにされてしまうよ。

「あんな終わり方」という発言に関しては思うところが人によって違うだろうけれど、ハッピーエンドであればそれで良いのだというのは浅いのではないだろうか。例えば映画のために創造された人間にだって「ハッピーエンド以降の生活」があるのだろうから、映画が終わった時点でハッピーであれば人生丸ごとハッピーになって穏やかに余生を送れるというのはちょっと想像力が足りないように思う。
「映画なんだから終演後にそいつの人生は続かないだろ」という冷酷な意見に対しては、「二時間弱で終わってしまうキャラクターの人生に何を求めてる?」としか。作り物をただ作り物として受け止めているだけであれば千円も二千円も払って映画館に足を運ぶのは無駄でしかないように思う。ただ感動させられるためにそんなにもお金を払うのであれば、もっと想像力と感受性を豊かにした方が幸せに生きられるよ。と。

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